東京高等裁判所 昭和33年(う)2047号 判決
被告人 朱春雄
〔抄 録〕
よつて按ずるに、原判決挙示の証拠によれば、被告人は、判示自動車運転の業務に従事中、判示日時頃判示自動車に鉄屑を積載し、助手席に三原勉を同乗させてこれを運転し、長野県岡谷市小尾口五千三百四十番地辛山太中方裏口から旧県道神宮寺岡谷線上に西方に向つて進発し、人夫を上乗させるため一時停車し、更に助手席に二木正人を乗せて発進したのであるが、右道路はその両側に存するコンクリート板を蓋とした側溝を含めてもその幅四米に満たず有効幅員約三米に過ぎないのに、右自動車の幅は二、二八米であり、運転者席は進行方向に向つて右側に存し、その左側に前記の如く助手二名を同乗させた場合、運転者席から左側面に対する視野は著しく狭められるものであること、当時自動車の前方進行方向の左側に当る同市小尾口五千三百六番地笠原琢郎方前には、道路の雪を掃きよせた東西約十二、三米、高さ数十糎の固く凍つた雪の小山があり、その西端に近い一部がコンクリートの蓋で覆われた側溝上にはみ出した状態にあつたこと、被告人が前記のように一旦停車した後再び発進する際には、車体は左車輪が道路左側側溝上に位置する程度に著しく左側に片寄つており、そのまま直進すれば、自動車と前記雪の小山との間は、その西端部においては人一人が辛うじて通過し得るに過ぎない状況にあつたこと、前記雪の小山の西端のやや西方附近には数人の通行人が佇立していた事実を認めることができる。そして当時は夕刻であつて、右雪の小山西方附近に佇立していた通行人は何時自動車の左側を通過するかわからないのであるから、かゝる状況の下において右の如き大型の自動車を運転する者は、助手席に同乗者ある場合にはこれをして、車窓より乗り出し、若しくは下車せしめて、通行人を警戒し、自動車が道路の中央に出て通行人の通過が容易安全になるまでの間自動車を誘導させる義務があるといわなければならない。右自動車を運転するに当り助手を同乗させなければならないとする法規は存せず、又助手席左端に乗つていた二木正人が本来は雑役夫であつて自動車運転助手でなかつたとしても、右自動車運転者の義務に消長を来たすものではない。又被告人は、右雪の小山の西方附近に佇立していた通行人が被告人の自動車を避けていることを死角に入るまで確認していたのであるから、擅に安全と軽信したものではないと主張するが、現に雪の小山西方附近より被告人の自動車の左側を被害者が通過しようとしたことは原判決挙示の証拠によりうかがい得るところであるから、右の状況の下で被告人の自動車の左側(被害者の方より見れば右側)を通過しようとした被害者に過失があると否とを問わず、被告人が自動車前方に在る人はすべて被告人の自動車を避け自動車の左側を通過することなしと断定することは、軽信のそしりを免れない。又右道路の状態これに対する自動車の位置が、前記のようなものであるのに鑑みれば、通行人が被告人の自動車の死角のうちに入つた後においても如何なる事故を発生するかもわからないのであるから、現に助手席に同乗している者がある場合これをして前記の如く警戒誘導させる義務があるものといわなければならない。
(岩田 渡辺辰 司波)